Blue Marvin1971 初期
青みがかったグレーのパネルを持つ最初期型。生産数は少なく、名前は当時の技術者のあだ名に由来するとされる。コレクター価格が最も高い世代。
1970年代、Moogと覇を競ったアメリカのシンセメーカーARP。その中心にいたセミモジュラーシンセ 2600 と、相方のアナログシーケンサー 1601 は、半世紀を経たいまも復刻とクローンで現役でいる。 2026年秋、その1601がBehringerから €219 で発売された。メーカーの興亡から今回のクローンまでを一気にたどる。
ARPは創業者 Alan Robert Pearlman のイニシャルから名付けられた。Pearlmanは電子工学畑の技術者で、 ジェミニ計画やアポロ計画向けのアンプ開発に関わったあと、オペアンプメーカー Nexus Research Laboratory を興して成功させている。 1948年、学生時代にすでに電子音楽の到来を論じる論文を書いていたという筋金入りのシンセ派だった。
1969年、自己資金10万ドルと同額の出資でマサチューセッツ州にARP Instrumentsを設立。共同創業者はDavid Friend。 翌1970年の第一号機 2500 はマトリクススイッチでパッチングする大型モジュラーで、 映画『未知との遭遇』で宇宙船と交信する5音のフレーズを奏でた機材として知られる。
1970年代を通じてARPはMoog最大のライバルとなり、一時は世界最大のシンセメーカーにまで上り詰めた。 Odyssey、Pro Soloist、Omni、文字列シンセやピアノまで手を広げたが、ギターシンセ Avatar の開発費を回収できず経営が傾き、1981年に倒産。最後の設計となったポリフォニックシンセ Chroma はCBS/Fenderに売却され、Rhodes Chromaとして世に出た。
ブランド自体はその後、Korgが継承する形で復活する。2015年にはDavid Friendの協力のもとARP OdysseyがKorgから復刻され、 2020年には2600のフルサイズ復刻も実現した。今回のBehringerクローンは、その「正統な復刻」とは別の系譜にあたる。
2600の設計思想は「モジュラーの自由さを、箱から出してすぐ鳴る形で」。PearlmanとエンジニアDennis Colinのチームが、 大型モジュラー2500の後継として開発した。パネル上の各モジュールは内部で標準的な経路にあらかじめ接続されていて、 パッチケーブルを1本も挿さなくても鍵盤で演奏できる。ジャックにケーブルを挿せばその接続だけが上書きされ、 モジュラーとしての実験が始まる。この「ノーマライズド接続+差し替え」という作法は、 現在のセミモジュラーシンセやユーロラックの入門機にまで受け継がれている。
基本経路の周囲には、リングモジュレーター、ノイズジェネレーター、サンプル&ホールド、エンベロープフォロワー、 外部入力用のプリアンプまでが1つのパネルに収まっている。鍵盤は49鍵で、後期の3620鍵盤はデュオフォニック対応とLFO内蔵。 学校や研究室向けの教材として売られ始めたが、実際に火を付けたのはミュージシャンだった。
青みがかったグレーのパネルを持つ最初期型。生産数は少なく、名前は当時の技術者のあだ名に由来するとされる。コレクター価格が最も高い世代。
グレーパネルにト音記号ロゴ。フィルターはMoogのラダー回路に酷似した4012型を搭載し、太く滑らかな音で評価された。
黒パネルにオレンジ印刷の最終形態。係争を受けてフィルターは自社設計の4072型に変わった。冒頭の写真はこの世代。
初期2600のフィルター4012はMoogの特許ラダーフィルターの実質コピーで、両社の係争の末にARPは使用をやめ、 1976年頃から自社設計の4072へ切り替えた。ところが4072には設計ミスがあり、高域がおよそ12kHzまでしか伸びず 「音がこもる」と長く批判された。この2種のキャラクターの違いは復刻の際の再現ポイントになっていて、 Korgの2600 FSもBehringer 2600も、両フィルターの切り替え機能を売りにしている。
1601はシンセではなく、シンセを自動演奏させるための「電圧の発生器」だ。正式な分類は シーケンシャル・ボルテージ・ジェネレーター。ルーツは大型モジュラー2500のシーケンサーモジュール1027で、 2600やOdysseyの相方として単体化された。キーボーディストにとっての「もう一本の手」として設計されている。
16本のスライダーが各ステップの電圧(0–10V)を決め、内部クロックに合わせて順に送り出す。 使い方は2通り。16ステップ×1系統として1本のフレーズを流すか、8ステップ×2系統に分けて、 A列で音程、B列でフィルターの開き具合といった別々の制御を同時に走らせるか。 各ステップは3系統あるゲートバスのどれにゲートを出すかをスイッチで選べるので、 1本のフレーズから複数の楽器に異なるリズムで合図を送る、といった仕掛けも組めた。
最大の特徴はクオンタイザを2系統内蔵していたこと。スライダーの生の電圧は無段階で、 そのままでは音程が定まらない。クオンタイザは電圧を半音単位(1/12V)に丸めてくれるため、 スライダーを大まかに動かすだけでフレーズが音階に乗る。当時のアナログシーケンサーとしては先進的で、 ライブ中にフレーズを作り替えるような演奏を可能にした。クロックは電圧制御でき、パルス幅の調整、 ランダム再生、ステップを進めるフットスイッチ入力、スキップとリセットといった実演向けの機能も備える。 後継・兄弟機として1613、1623があり、総称して「ARP Sequencer」と呼ばれる。
1601の作法をそのままブラウザに移したミニ版を用意した。フェーダーがステップの電圧、音源は2600を想定した 鋸波+ローパスのモノシンセ。まずは再生して、フェーダーを動かしてみてほしい。
フェーダー:ドラッグで電圧が変わる。クオンタイザONなら半音に吸着し、OFFなら無段階のCVになる。 B1/B2/B3:各ステップのゲートバス。クリックで切り替わり、B2はフィルターを強く開くアクセント、 B3は音程の代わりにノイズの打音を鳴らす行き先として割り当てた。 8 × 2モード:後半8本(青)が前半8ステップのフィルター開閉を担う、原機のパラレル動作の再現。 音は端末側のWeb Audioで合成している。
ARPの遺産の引き受け方は2通りある。ひとつはKorgによる復刻で、ブランドと元共同創業者の協力を得た「正統」な系譜。 もうひとつがBehringerのクローンで、特許の切れた往年の回路を現代の量産技術で作り直し、 ビンテージ相場とは桁の違う価格で市場に出すやり方だ。是非の議論は絶えないが、 「2600が中古で数百万円、限定復刻でも約40万円という価格でしか手に入らなかった」状況を変えたのは後者である。
Behringer 2600は2020年に発売された。19インチラック/8Uの筐体に原機の回路を再現し、 パッチポイントは83か所。原機にない要素としてMIDIとUSB、フェーダーのLEDを加え、 リバーブは通常版ではデジタルのスプリング再現に置き換えられている。フィルターは4012系と4072系の2種を切り替え可能で、 第02章で触れた係争と設計ミスごと「仕様」として取り込んだ格好だ。 開発にはAMSynthsのRob Keebleが関わり、原機のカラーリングをなぞった Blue Marvin/Gray Meanieの限定版も出た。こちらは例外的に実物のスプリングタンクを積んでいる。価格は発売当初でも原機復刻の数分の一で、 Thomannでは €343 前後で推移している(2026年11月時点)。
1601のクローンは足かけ5年のプロジェクトだった。2021年12月、Behringerはプロトタイプを公開し、 「作るべきかどうか」をファンに問うた。その後長く音沙汰がなかったが、2026年10月に製品ページが公開され完成が報じられ、 11月には販売が始まった。2600クローンと並べることで、1970年代のARPの「本体+シーケンサー」という 組み合わせが、令和の価格でそのまま再現できるようになった。
中身は原機の作法をほぼそのまま写している。16×1/8×2の動作、3系統のゲートバス、 クオンタイズ済み2オクターブの音程レンジと、フィルター変調などに使う10オクターブのフリーCVレンジ、 クロックのFMとパルス幅変調、スキップ/リセット。コントロール類は42。 原機からの追加は、デスクトップ/ユーロラック両対応のケース、MIDIとUSB(トランスポート同期つき)、 同期信号の入出力と分周、そして往年のKorg式シンセなどHz/V規格の機器とつなぐためのV/Hzコンバーターだ。 クオンタイザはSynthTribeアプリ側から設定できる旨も初期の告知で触れられていた。
左:Behringer版のパネル正面。右:原機。ゲートアサイン、クオンタイザ、マルチプルに至るまでレイアウトの対応関係が追える。
2600のときと同じく、Behringer版の価値は「原機の体験をどこまで安く、現代の環境につながる形で届けるか」にある。 DAWと同期できない、保存もできない、スライダーの位置だけが記憶という1976年の作法はそのままで、 接続まわりだけが2026年仕様になった。テクノ/モジュラーの現場でステップシーケンサーが再評価されている今、 1601の復活は懐古ではなく実用品としての投入だと言える。
Analog Sequencer / Semi-Modular Synthesizer Lexington, Mass. — 1969 → 2026
ARP. 2600と1601、そしてBehringerクローン
1970年代、Moogと覇を競ったアメリカのシンセメーカーARP。その中心にいたセミモジュラーシンセ 2600 と、相方のアナログシーケンサー 1601 は、半世紀を経たいまも復刻とクローンで現役でいる。 2026年秋、その1601がBehringerから €219 で発売された。メーカーの興亡から今回のクローンまでを一気にたどる。
ARP 2600。黒いパネルにオレンジの印刷、鍵盤ユニットを開いた状態
ARP 2600(後期型2601、オレンジ印刷のパネル)。ケース一体型で持ち運べるモジュラーとして設計された。
1969
Alan R. Pearlman が ARP Instruments を創業
1971
セミモジュラーシンセ ARP 2600 発売。当時の価格は名前そのまま $2,600
1976
16ステップ・シーケンサー ARP 1601 登場
€219
2026年、Behringer 1601 SEQUENCER の欧州価格
01ARPという会社 02ARP 2600 03ARP 1601 04Behringerクローン
01
ARPという会社
ARP Instruments, Inc.
ARPは創業者 Alan Robert Pearlman のイニシャルから名付けられた。Pearlmanは電子工学畑の技術者で、 ジェミニ計画やアポロ計画向けのアンプ開発に関わったあと、オペアンプメーカー Nexus Research Laboratory を興して成功させている。 1948年、学生時代にすでに電子音楽の到来を論じる論文を書いていたという筋金入りのシンセ派だった。
1969年、自己資金10万ドルと同額の出資でマサチューセッツ州にARP Instrumentsを設立。共同創業者はDavid Friend。 翌1970年の第一号機 2500 はマトリクススイッチでパッチングする大型モジュラーで、 映画『未知との遭遇』で宇宙船と交信する5音のフレーズを奏でた機材として知られる。
1970年代を通じてARPはMoog最大のライバルとなり、一時は世界最大のシンセメーカーにまで上り詰めた。 Odyssey、Pro Soloist、Omni、文字列シンセやピアノまで手を広げたが、ギターシンセ Avatar の開発費を回収できず経営が傾き、1981年に倒産。最後の設計となったポリフォニックシンセ Chroma はCBS/Fenderに売却され、Rhodes Chromaとして世に出た。
ブランド自体はその後、Korgが継承する形で復活する。2015年にはDavid Friendの協力のもとARP OdysseyがKorgから復刻され、 2020年には2600のフルサイズ復刻も実現した。今回のBehringerクローンは、その「正統な復刻」とは別の系譜にあたる。
ARP 2600のパネルに手を置くAlan R. Pearlman
Alan R. Pearlmanと2600。写真:Alan R. Pearlman Foundation
1969
ARP Instruments 設立PearlmanとDavid Friendらにより、マサチューセッツ州で創業。当初はTonus Inc.の一部門だった。
1970
ARP 2500第一号機の大型モジュラー。マトリクススイッチ式のパッチングが特徴。
1971
ARP 2600セミモジュラーの2600が登場し、以後10年間にわたり改良を重ねながら生産された。
1972
ARP OdysseyMinimoogへの対抗馬となる2オシレーターのモノシンセ。2600と並ぶ代表機になる。
1976
ARP Sequencer 16012500の1027モジュールをルーツに持つ単体シーケンサー。
1981
倒産Avatarの失敗などが響き破産。Chromaの設計はCBS/Fenderへ。
2015
KorgがARP Odysseyを復刻David Friendの協力でブランドが復活。以後KorgがARP名義の復刻を担う。
2020
Korg ARP 2600 FS と Behringer 2600同年に、正統復刻と低価格クローンという対照的な2台の2600が出そろった。
2026
Behringer 1601 SEQUENCER 発売2021年のプロトタイプ提示から約5年越しの製品化。本稿の最終章。
02
ARP 2600
Semi-modular Synthesizer · 1971–1981
2600の設計思想は「モジュラーの自由さを、箱から出してすぐ鳴る形で」。PearlmanとエンジニアDennis Colinのチームが、 大型モジュラー2500の後継として開発した。パネル上の各モジュールは内部で標準的な経路にあらかじめ接続されていて、 パッチケーブルを1本も挿さなくても鍵盤で演奏できる。ジャックにケーブルを挿せばその接続だけが上書きされ、 モジュラーとしての実験が始まる。この「ノーマライズド接続+差し替え」という作法は、 現在のセミモジュラーシンセやユーロラックの入門機にまで受け継がれている。
VCO 1–3
3基のオシレーター。鋸波・矩形・三角・サイン・パルスを出力し、LFOとしても使える
→
VCF
24dB/oct ローパスフィルター。共振を上げると発振もする
→
VCA
ADSRとAR、2つのエンベロープで音量とフィルターを開閉
→
REVERB / OUT
スプリングリバーブと内蔵スピーカーを経てステレオ出力
基本経路の周囲には、リングモジュレーター、ノイズジェネレーター、サンプル&ホールド、エンベロープフォロワー、 外部入力用のプリアンプまでが1つのパネルに収まっている。鍵盤は49鍵で、後期の3620鍵盤はデュオフォニック対応とLFO内蔵。 学校や研究室向けの教材として売られ始めたが、実際に火を付けたのはミュージシャンだった。
Edgar Winter「Frankenstein」のリフ
Stevie Wonder 点字ラベルを貼った2600を愛用
Ben Burtt 『スター・ウォーズ』のR2-D2の声
Pete Townshend / The Who
Herbie Hancock
Jean-Michel Jarre『Oxygène』
Joe Zawinul 2台同時使用、片方は鍵盤を反転
3つの顔と、フィルター係争
Blue Marvin1971 初期
青みがかったグレーのパネルを持つ最初期型。生産数は少なく、名前は当時の技術者のあだ名に由来するとされる。コレクター価格が最も高い世代。
グレー期 2600P1971–1976
グレーパネルにト音記号ロゴ。フィルターはMoogのラダー回路に酷似した4012型を搭載し、太く滑らかな音で評価された。
オレンジ期 26011977–1981
黒パネルにオレンジ印刷の最終形態。係争を受けてフィルターは自社設計の4072型に変わった。冒頭の写真はこの世代。
Filter4012 から 4072 へ
初期2600のフィルター4012はMoogの特許ラダーフィルターの実質コピーで、両社の係争の末にARPは使用をやめ、 1976年頃から自社設計の4072へ切り替えた。ところが4072には設計ミスがあり、高域がおよそ12kHzまでしか伸びず 「音がこもる」と長く批判された。この2種のキャラクターの違いは復刻の際の再現ポイントになっていて、 Korgの2600 FSもBehringer 2600も、両フィルターの切り替え機能を売りにしている。
Synthesis
アナログ減算合成、モノフォニック(後期鍵盤でデュオフォニック)
Oscillators
VCO ×3、ノイズジェネレーター
Filter
24dB/oct ローパス ×1(4012型 → 4072型)
Envelopes
ADSR ×1、AR ×1
Extras
リングモジュレーター、サンプル&ホールド、エンベロープフォロワー、スプリングリバーブ、内蔵スピーカー
Control
CV/Gate、49鍵キーボード
Price 1971
$2,600(現在の貨幣価値でおよそ $21,000)
03
ARP 1601
Sequencer · 1976
ARP Sequencer 1601。16本のスライダーとゲートアサインスイッチ、右側にクオンタイザ部
ARP Sequencer(1601)。16本のスライダーの上にゲートアサインのスライドスイッチが並び、右端にクオンタイザA/Bを備える。
1601はシンセではなく、シンセを自動演奏させるための「電圧の発生器」だ。正式な分類は シーケンシャル・ボルテージ・ジェネレーター。ルーツは大型モジュラー2500のシーケンサーモジュール1027で、 2600やOdysseyの相方として単体化された。キーボーディストにとっての「もう一本の手」として設計されている。
16本のスライダーが各ステップの電圧(0–10V)を決め、内部クロックに合わせて順に送り出す。 使い方は2通り。16ステップ×1系統として1本のフレーズを流すか、8ステップ×2系統に分けて、 A列で音程、B列でフィルターの開き具合といった別々の制御を同時に走らせるか。 各ステップは3系統あるゲートバスのどれにゲートを出すかをスイッチで選べるので、 1本のフレーズから複数の楽器に異なるリズムで合図を送る、といった仕掛けも組めた。
最大の特徴はクオンタイザを2系統内蔵していたこと。スライダーの生の電圧は無段階で、 そのままでは音程が定まらない。クオンタイザは電圧を半音単位(1/12V)に丸めてくれるため、 スライダーを大まかに動かすだけでフレーズが音階に乗る。当時のアナログシーケンサーとしては先進的で、 ライブ中にフレーズを作り替えるような演奏を可能にした。クロックは電圧制御でき、パルス幅の調整、 ランダム再生、ステップを進めるフットスイッチ入力、スキップとリセットといった実演向けの機能も備える。 後継・兄弟機として1613、1623があり、総称して「ARP Sequencer」と呼ばれる。
Steps
16ステップ(16×1 / 8×2 切り替え)
CV Out
A/B 各系統にクオンタイズ出力と非クオンタイズ出力を装備、0–10V、1V/Oct
Gate
ゲートバス ×3、各ステップでアサイン可能
Clock
内蔵クロック(電圧制御、パルス幅可変)、外部トリガー入力、ランダムモード
Memory
なし。スライダーの位置そのものがフレーズ
触って分かる1601
1601の作法をそのままブラウザに移したミニ版を用意した。フェーダーがステップの電圧、音源は2600を想定した 鋸波+ローパスのモノシンセ。まずは再生して、フェーダーを動かしてみてほしい。
1601 SEQUENCER
Browser tribute — not affiliated
STEP — / NOTE —
▶ PLAY
Tempo 132 BPM
Mode 16 × 1 QUANTIZER RANDOM
Pattern BASSLINE DICE
フェーダー:ドラッグで電圧が変わる。クオンタイザONなら半音に吸着し、OFFなら無段階のCVになる。 B1/B2/B3:各ステップのゲートバス。クリックで切り替わり、B2はフィルターを強く開くアクセント、 B3は音程の代わりにノイズの打音を鳴らす行き先として割り当てた。 8 × 2モード:後半8本(青)が前半8ステップのフィルター開閉を担う、原機のパラレル動作の再現。 音は端末側のWeb Audioで合成している。
04
Behringerクローン
Behringer 2600 / 1601 Sequencer
ARPの遺産の引き受け方は2通りある。ひとつはKorgによる復刻で、ブランドと元共同創業者の協力を得た「正統」な系譜。 もうひとつがBehringerのクローンで、特許の切れた往年の回路を現代の量産技術で作り直し、 ビンテージ相場とは桁の違う価格で市場に出すやり方だ。是非の議論は絶えないが、 「2600が中古で数百万円、限定復刻でも約40万円という価格でしか手に入らなかった」状況を変えたのは後者である。
先行した2600クローン
Behringer 2600は2020年に発売された。19インチラック/8Uの筐体に原機の回路を再現し、 パッチポイントは83か所。原機にない要素としてMIDIとUSB、フェーダーのLEDを加え、 リバーブは通常版ではデジタルのスプリング再現に置き換えられている。フィルターは4012系と4072系の2種を切り替え可能で、 第02章で触れた係争と設計ミスごと「仕様」として取り込んだ格好だ。 開発にはAMSynthsのRob Keebleが関わり、原機のカラーリングをなぞった Blue Marvin/Gray Meanieの限定版も出た。こちらは例外的に実物のスプリングタンクを積んでいる。価格は発売当初でも原機復刻の数分の一で、 Thomannでは €343 前後で推移している(2026年11月時点)。
Behringer 2600。ラックマウント型のパネルにオレンジ印刷
Behringer 2600。鍵盤とスピーカーを排し、ラックに収まる形に再構成されている。写真:Thomann
そして1601が揃う
1601のクローンは足かけ5年のプロジェクトだった。2021年12月、Behringerはプロトタイプを公開し、 「作るべきかどうか」をファンに問うた。その後長く音沙汰がなかったが、2026年10月に製品ページが公開され完成が報じられ、 11月には販売が始まった。2600クローンと並べることで、1970年代のARPの「本体+シーケンサー」という 組み合わせが、令和の価格でそのまま再現できるようになった。
Behringer 1601 Sequencer の実機上面。黒パネルにオレンジ印刷、16本のフェーダー
Behringer 1601 SEQUENCER 実機。原機後期型にならった黒×オレンジのパネル、上段にMIDI OUTと同期まわりが追加されている。写真:Bonedo
€219
Thomannでの欧州価格は €219、米国では $206 前後。原機1601の中古は希少品として 高値で取引されるのと対照的に、ユーロラック1モジュール分の価格で「2600の相方」が新品で買える。
中身は原機の作法をほぼそのまま写している。16×1/8×2の動作、3系統のゲートバス、 クオンタイズ済み2オクターブの音程レンジと、フィルター変調などに使う10オクターブのフリーCVレンジ、 クロックのFMとパルス幅変調、スキップ/リセット。コントロール類は42。 原機からの追加は、デスクトップ/ユーロラック両対応のケース、MIDIとUSB(トランスポート同期つき)、 同期信号の入出力と分周、そして往年のKorg式シンセなどHz/V規格の機器とつなぐためのV/Hzコンバーターだ。 クオンタイザはSynthTribeアプリ側から設定できる旨も初期の告知で触れられていた。
Behringer 1601 Sequencer のパネル正面。フェーダーのLEDが光っている
原機ARP Sequencer 1601のパネル
左:Behringer版のパネル正面。右:原機。ゲートアサイン、クオンタイザ、マルチプルに至るまでレイアウトの対応関係が追える。
原機 1601 と Behringer版の対応
ARP Instruments · 1976
Sequencer 1601
形式
卓上型単体ユニット、内部電源
ステップ
16(16×1 / 8×2)
クオンタイザ
A/B 2系統、半音単位
ゲート
ゲートバス ×3
外部制御
CV/Gate、クロック入出力、フットスイッチ
MIDI / USB
なし
入手
中古市場のみ。希少で高額
Behringer · 2026
1601 SEQUENCER
形式
デスクトップケース入り、ユーロラックへ移設可
ステップ
16(16×1 / 8×2)
クオンタイザ
2系統、音程用2オクターブ+フリー10オクターブ
ゲート
ゲートバス ×3
外部制御
CV/Gate、クロックFM/PWM入力、Position 1出力 + Sync入出力・分周、V/Hz変換
MIDI / USB
あり(トランスポート同期対応)
入手
新品 €219 / $206 前後
2600のときと同じく、Behringer版の価値は「原機の体験をどこまで安く、現代の環境につながる形で届けるか」にある。 DAWと同期できない、保存もできない、スライダーの位置だけが記憶という1976年の作法はそのままで、 接続まわりだけが2026年仕様になった。テクノ/モジュラーの現場でステップシーケンサーが再評価されている今、 1601の復活は懐古ではなく実用品としての投入だと言える。
Sources
ARP Instruments, Inc. — Wikipedia
ARP 2600 — Wikipedia
The History of ARP Instruments — Gearnews
Blast from the past: ARP Sequencer — MusicRadar
1601 SEQUENCER — Behringer 公式製品ページ
Behringer 1601 Sequencer Now Available — Gearnews(2026-11-01更新、価格情報)
Behringer 1601: the ARP-inspired hardware sequencer is finished — Synth Anatomy
Photos
ARP 2600:Future / MusicRadar 系メディア掲載写真
ARP Sequencer 1601:AMAZONA.de
Behringer 1601 SEQUENCER:Bonedo、Gearnews(Behringer提供素材)
Behringer 2600:Thomann
価格と発売状況は2026年11月2日時点の情報。ブラウザ上のシーケンサーは本ページ独自のデモで、ARP/Behringer公式のものではない。