チ。 感想 (ネタバレあり)
かな〜〜〜〜り前に信頼できるスジから薦められて、大人買いして「こりゃあ面白え!!」となったんだけど、面白すぎるが故に終わってしまうのが惜しく(買った時点で完結していたので)遅々として読み進んでいなかったのだが、ついに腰を上げて読了した
多少の知的好奇心がある身からしてみると、この死のリレーの先には(
ローグ・ワンみたいだよね)
コペルニクスが待っているのか....!? という期待があったのだけど、実際の歴史とクロスするのは最終巻の最後の語り手であるアルベルトがコペルニクスに後に影響を与えることを示唆する内容で終わるという、ややビターでもありつつ、敢えて王道進行から外したシリーズだっただけに終わり際まで綺麗だったなァ!! と感動した
分かっている人間からしてみると、ビミョーにボヤかされていたそこまでの描写とはうってかわって
ポーランドと年代が明言されるのでびっくりしたが「こんなコトが世界のどこかであったのかもネ」という想像力というべきか、遊び心というべきか、そういったグラデーションなのかなあとおもった
作中で一番盛り上がったのは、ある意味シリーズ通しての敵対的な人物だったノヴァクの娘であるヨレンタが地動説支持の武装勢力を組織していたことが明かされるくだりで、1章のラファウも正直感情移入できるキャラクターかというと怪しいのだが(しかし、1巻の時点ではこの少年の成長譚として地動説を解明していく的な展開を正直予想していた....ので、バッサリ裏切られる展開は
まどマギを連想した)、2章のグラスや、3章のシュミットともはや狂気じみたキャラクターと比べると、まだギリで感情移入できるキャラクターだったのが、すっかり大人になって、組織人として自分が受け継いだバトンを会ったばかりのドゥラカに託して散る展開には「イっちまったんだな.....」となってしまった
21世紀を生きる自分にとっては、決着のついた問題であるので、歴史のこちら側として地動説を追い求め、迫害される者たちの生き様にある種の憧憬を抱くわけだが、この地動説というのはある意味ではマクガフィンで何とも置換可能なところがやや恐ろしい
イスラエルの人たちが自分の先祖たちはかつてここに住んでいたのだ、というナラティブからのイデオロギーで、こんなに残忍なことができるのか、というのは毎回ビビらされるのだが、対する
イランにしてもミサイルをブッ放すというある種の合理主義の結実のような瞬間に
アッラーを称えているコトにもビビる
正直まあ、自分が八百万の神々とか、万世一系の天皇とか、そういうナラティブに全然乗っかれてないが、それにしても皇族に対して積極的に不敬なコトをしたいわけではない....っていう微妙なグラデーションだってのはある
かといって
共産党みたいに天皇制を廃止せよ!! みたいなイデオロギーでもないわけで、そういう意味ではオレはこの物語の何者でもないんだな.....って気持ちにならないでもない
しかし、自分が先人たちからいろいろなバトンを受け取っているという面では非常に共感するところがあり、このハナシの死のリレーほどエクストリームではないが、それにしてもこのバトンを明日の誰かに渡すだけ渡しとこう、みたいな意識は常にある
ラストのドゥラカとノヴァクの技術倫理を巡る問答は、この大生成時代に結構グサッとくるモノがあり、信仰によってでしか人間を律することはできない、という主張のノヴァクと、ある種のテクノトピア的思想のドゥラカは迷い、悩むことで人間には倫理があるのだ、と説く
2024年の
アメリカの大統領選をみていて、まさにここらへんの戦いがあったのだろう、という理解でいる
つまり、トランプのカムバックというのはノヴァク的な思想のバックラッシュなのである、という
妻曰く、研究室のゼミで、学生が「
ChatGPT によるとこうらしいです」というようなことを平気で奏上するのだという
「?」こそが知的好奇心の根源なのである、というあたりはかなり共感できるのだが、こと現代においては「?」の次のステップで一足飛びで機械が答え "らしきもの" を教えてくれるので、なんらか知的好奇心が満たされたような気にはなれるのだけど、やっぱりある程度は己の脳で知(チ)のネットワークを組んでいかないと "らしきもの" に惑わされるのではないかと常々おもう
もちろん、検索エンジンに代わって「?」を解消するためにより手っ取り早い手段が出てきたのは歓迎ではあるのだが