ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌 感想 (ネタバレあり)

数週前のターンTARAKO さんの訃報に際して珍しく岩井さんがちょっと湿っぽい話をしていて、ちょっと気になっていた
そこへ、東京ポッドを遡って聴いてたらタツオさんがこのわたしの好きな歌から細野晴臣はらいそをかけててどういう映画なの??とおもったのと、この回は TARAKO さんが亡くなる前の回だったので、スピってる気持ちにもなり、おもわずみはじめてしまった
全体的に変な映画で、本筋だけでいけば60分ぐらいの尺に収まりそうなものだが、異様に音楽とドラッギーな映像パートが長くて90分という仕上がりだったようにおもう
のっけから花輪くんの家のロールスロイスで静岡まで行くってだけのシーンなのに、大瀧詠一で異様なアニメが続くなあとおもっていたが、ここの演出は湯浅政明さんらしい、恐るべし
ダンドゥットのくだりも「これいるか??」ってツッコミたくなるぶっこみ具合だし、映像もドラッギーでなんかレゲエぽくもあり謎
そして、件のはらいそは知り合った「おねえさん」の家に飾ってあった絵のシーンであった
ほいで、この辺まではぬるっとしたテンションでみてたんだけど、おねえさんが「この歌は実は哀しい歌なの」と話したところでメタ的に先の展開をグッと予知した(馬は死ぬんだろうな)のだが、本編は自分が想定していたよりも苛烈で、馬は出征して軍馬になるため、馬と交流していた子と離れることになるわけだが、それでも出征ということでバンザイ三唱で送り出そうじゃないか、という歌でしたよと
オレは少し前から薄々感じていたが、戦時中の描写で出征に対してムラの人々がバンザイで送り出すというのが堪らなく耐えられない
夫を送り出した妻、息子を送り出した母、国に奉仕したいのに兵役に就けない男....いろいろな視点を得てきてしまったが、誰一人として心の底からバンザイなんて思ってる人などいないのだ
まあ、もしかしたらムラの右翼のジジイ(と罵るのはやや憚られる....そういう教育の下育ったのだからな)は心の底から御国のために命を賭してこい....!と晴れ晴れとした気持ちだったかもしれないが、正直軽蔑する
オレもそういう教育の下育っていたらどうだかわからないし、後知恵なのも百も承知だけど、それでもイマのオレとして、ムラの若者をバンザイで送り出すなんておかしいだろ!!!!!!!!!と強い憤りを感じる
それでも本音をぶつけたりするわけでもなく、ただバンザイ!って送り出すのが奥ゆかしい(?)スタイルなんだ!国民性なんだ!みたいなやつに同調圧力というか......臭いものに蓋、見たくないものは見ない、藪蛇なことは言わない、みたいな、そういうのがあるからオレの30年は失われてんじゃねーのか????とムカムカする
正直ちびまる子ちゃんリテラシはかなり低いのだが、日常系(深夜ではない)の作品だと高を括っていたので、突然戦争の話が持ち出されてかなり動揺した
唄では馬だったけど、それはメタファーなんじゃない??とおもうともうあまりにもつらすぎて涙が止まらなかった
そしてウクライナロシアでは現代でも同様のことを未だにやっているわけだし、イスラエルでも国を挙げて民族浄化をやっているわけだが、正直イスラエルの強硬ぶりにはかなり引いているのだが、イスラエル側で動員されている兵士も死ぬことはあるだろうし、抵抗しているハマス側も相当死んでいるわけで
で、話の本筋としては「おねえさん」がプロポーズされて、お相手の実家で一緒に暮らしてほしい....というのに対して自分は東京で絵の勉強をしたいって夢があるから結婚はできない....と一度は突っぱねるわけだけど、まる子のアシストと彼氏が買って行った花(そういう時のためにも訪ねる時は何かを持って行っとくもんだなあ)をみて「やっぱり結婚しよう」と
この決断にオレの心はややささくれだった
大学を卒業したらってのが学部なのか修士なのかは知らないけど、大学卒業したらすぐ籍いれてくれってのは急ぎすぎじゃね?(まあ私はそのタイミングで結婚してるのであんまり強くは言えないけど)っておもうし、オレが佐藤だったらしょう子の意思を尊重してしばらく遠距離恋愛にしようか、って決断をするよ
「オレ、実家に帰ったら継ぎたくなってさ...」ってあまりにもしょう子のことを軽視しすぎだろ!!とキレてたら、我が家のまる子こと妻が「別に北海道でも絵描けるくない?」って言い出して、そしたら本物まる子がまんま同じこと言ってきて「(なんなんこいつら...)」となった
そしてオーラスは本当にここまで積み上げてきたものが全て台無しになる展開で、自分はかなりガッカリした
まる子が「おねえさん」を想う気持ちは、唄の中で「馬を想う気持ちはエターナルだから」と話していたことを伝えるために、白無垢のしょう子が見えるジャングルジムで戦時中のようにまる子がバンザイしてみせる
いつか別れる日がきても、相手のことを想う気持ちは....ってとこまではいいけど、それをバンザイというクリシェで表現するのは戦時下での若者の出征を肯定することになりやしまいか?と。あの愚かな因習を美化することになりやしまいか?と
ここはオレの解釈なので作り手たちの信条はわからないが、91年生まれの自分の感性としてこの92年公開の映画のいくつかの描写はかなり受け容れ難いものだった
細かいディティールとして、唄をまる子に教えた大石センセイにまる子が「私はこういう解釈なんだよね」と話す時に、ほんの少しだけ何かを懐かしむような、そういう行動をとったように見えた
大石センセイのことは全然知らないけど、あの一瞬だけで実はもう夫と死別してるんじゃないか、とか、戦争で子供を喪ってるんじゃないか、とか、いろいろ想像の余白があったようにおもった
また、知らない「おねえさん」に懐くまる子に対してやや嫉妬するまる子の姉に対しても、ほんの少しだけそれを感じさせてくれるあたりもよかった