『スキャンダル Bombshell』感想(ネタバレ)…彼女たちが伝えたこと : シネマンドレイク:映画感想&レビュー

20世紀フォックス」という映画会社はもともとは1934年に「フォックス・フィルムズ」と「20世紀映画」という2つの企業が合併して生まれました。ではそこから20世紀フォックスは2019年にディズニーに買収されるまでずっと自社で頑張ってきたのかというとそうではありません。1985年に「ニューズ・コーポレーション」という企業に買収されます。
このニューズ・コーポレーションという企業は聞きなれないかもしれませんが、アメリカどころか世界有数のとてつもない“超”がつく大企業です。オーストラリア発祥で、「ルパート・マードック」という人が1979年に設立しました。いわゆるメディア・コングロマリットと呼ばれる巨大な複合企業であり、あらゆるメディアを傘下に加えています。イギリスの「ザ・サン」「タイムズ」、アメリカの「ニューヨーク・ポスト」「ウォールストリート・ジャーナル」、出版関連ならば「ハーパーコリンズ」など、これらは手駒のほんの一部。ゆえに創設者のルパート・マードックはメディア王と呼ばれています。
そのニューズ・コーポレーションは20世紀フォックスを配下に加えてしばらく後、テレビネットワークにも参入し、そこで立ち上げたのが「Fox Broadcasting Company」…これは「FOX」と一言で呼ばれるものです。さらにケーブルテレビ局として「FOXニュース」を始め、多数の「FOX」と名のつく事業を展開。テレビ関連のFOXの方がむしろ有名になってしまった感じです。FOXニュースは保守的・共和党寄りであることでも知られていますね。
元祖FOXのはずの20世紀フォックスはというと、エンターテインメント部門として分社化され、「21世紀フォックス」という企業の傘下になりました。
で、2019年にディズニーに20世紀フォックスという映画会社だけ(厳密には他にもある)を売ることになり、ニューズ・コーポレーションは21世紀フォックスを解体して自分もろとも「FOXコーポレーション」と名を改めるに至ったのです。見事(?)に「FOX」の名を我がモノにした…という感じですかね。
なので私たち映画好きは映画関連の話題しか見ないことが多いので全体図を把握しきれていないですが、「ネズミがキツネを殺した」なんて揶揄されるのは適切ではないどころか、むしろ「キツネが別の巨大な動物に“キツネ”という名前だけ盗られた」みたいな説明の方が正しいとも言えます。

まず主役のひとりである人気ニュースキャスター「メーガン・ケリー」。2004年にFOXニュースに就職し、そこからメキメキとキャリアを伸ばし、2013年には冠番組である「The Kelly File」を持つまでに。作中でも描かれているとおり、共和党寄りなFOXニュースに勤めるにも関わらず、当時の大統領候補となるドナルド・トランプに対して批判的態度をとってしまったゆえに集中砲火で非難を浴びました(支持政党的には無党派みたいですね)。2008年には「ダグラス・ブラント」という元実業家(今は小説家)と結婚。子どももいて、家族の描写もありましたね。
続いてメーガン・ケリーよりも5歳年上のベテランキャスター「グレッチェン・カールソン」。彼女もFOXニュースの朝の番組「Fox&Friends」で活躍し、視聴者にも知れ渡ってた有名人。そして作中で発端となるセクハラ告発の最初のひとりです。告発後は、女性の権利を主張する活動をしながら、さまざまな展開を実施。また、彼女自身は「ミス・アメリカ」で、運営理事となったときは水着による審査を止める決定をし、それをめぐってゴタゴタが起きたりもしました。以下のページで彼女のTEDトークでの生の言葉を聞けるので気になる方はぜひ。

そんな彼女たちが働くこのFOXニュースを牛耳っているのが会長兼CEOの「ロジャー・エイルズ」です。FOXニュースを創った男であり、リチャード・ニクソンロナルド・レーガンジョージ・H・W・ブッシュのメディアコンサルタントも務めてきました。FOXニュースが共和党寄りなのも、このロジャー・エイルズの存在ゆえですね。ドナルド・トランプの選挙参謀としても尽力し、作中の描写のとおり、会社をあげてトランプをバックアップしようとします。妻の「ベス(エリザベス)」は3人の目の奥さんです。彼はもともと血友病に苦しんでいたそうで、2017年5月18日に77歳で亡くなりました。
その大ボスであるロジャー・エイルズの下で働く人たちも多数。
FOXニュース上席副社長「ビル・シャイン」。彼はFOXニュースを辞めた後にトランプ政権の下で広報部長をしていましたが、2019年に辞任しました。
ロジャー・エイルズの弁護士となる「スーザン・エストリッチ」。彼女は実は性犯罪に関する著作を書いたりと、女性の人権保護に積極的な姿勢を示していて、しかも民主党支持者だったはずなのですが、なぜかロジャーの弁護をしており、この一件で大きく評判を落としています。
そして終盤に満を持して登場するのがすでに説明したとおりこの巨大組織の頂点に君臨する“神”のような存在である「ルパート・マードック」。彼の息子でもある「ラクラン」や「ジェームズ」も登場しました。
他にFOXニュース関連だと番組司会者などで顔の知られる「ショーン・ハニティー」「ビル・オライリー」「アビー・ハンツマン」「ブレット・バイアー」「キンバリー・ギルフォイル」「ルディ・バフティアル」などなど大勢出てくるのですが、日本人にとっては“誰?”状態なのでイマイチ理解が追いつきにくいですね。
上記に挙げたキャラクターは全員が実在の人物。一方で、新人キャスターとして登場する「ケイラ・ポスピシル」やその同僚の「ジェス」は、架空のキャラクターです。とくにケイラはセクハラを告発した複数の女性をミックスするように作られたそうです。